大阪地方裁判所 平成10年(ワ)9996号 判決 2000年7月24日
原告
小坂一生
ほか二名
被告
坂口武春
ほか一名
主文
一 被告らは、連帯して、原告小坂一生に対し、金一億三九九二万四二一八円及び内金一億三五九五万八四六五円に対する平成七年一一月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告らは、連帯して、原告小坂憲昭及び同小坂芳美それぞれに対し、金一七〇万円及びこれらに対する平成七年一一月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 訴訟費用はこれを四分し、その三を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。
四 この判決は、第一項及び第二項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一 請求
一 被告らは、連帯して、原告小坂一生に対し、金六億〇〇九二万一八〇八円及び内金五億九六九五万六〇五五円に対する平成七年一一月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告らは、連帯して、原告小坂憲昭及び同小坂芳美それぞれに対し、金六六〇万円及びこれらに対する平成七年一一月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
本件は、被告坂口武春(以下「被告坂口」という。)運転、被告土屋勝利(以下「被告土屋」という。)所有の普通乗用自動車と原告小坂一生(事故当時一六歳。以下「原告一生」という。)運転の自転車(以下「本件自転車」という。)が衝突した事故について、原告らが被告坂口に対して民法七〇九条に基づく損害賠償を請求するとともに、被告土屋に対して自賠法三条に基づく損害賠償を請求した事案である。なお、原告一生の請求は、主張損害額一〇億七二七〇万一三五〇円の一部請求である。
一 争いのない事実
1 当事者
原告小坂憲昭(以下「原告憲昭」という。)は、原告一生の父であり、原告小坂芳美(以下「原告芳美」という。)は、原告一生の母である。
2 事故(以下「本件事故」という。)の発生
日時 平成七年一一月一一日午後五時ころ
場所 滋賀県坂田郡伊吹町高番三八一番地の一先道路(国道三六五号線)(以下「本件事故現場」という。)
被告車両 普通乗用自動車(岐阜四六ね五五九四)(以下「被告車両」という。)
運転者 被告坂口
所有者 被告土屋
事故態様 道路左側を走行中の本件自転車が右側に道路を横断しようとしたところ、後方から進行してきた被告車両と衝突した。
3 責任原因
被告坂口は、被告車両を運転して本件自転車の横を通過するに際し、十分減速するなどしないで進行した過失があるから、民法七〇九条に基づき、原告らに生じた損害を賠償すべき責任がある。
被告土屋は、本件事故当時、被告車両を保有する者であったから、自賠法三条に基づき、原告一生に生じた損害を賠償すべき責任がある。
4 原告の通院経過
<1> 市立長浜中央病院
平成七年一一月一一日から同年一二月六日まで入院(二六日間)
<2> 藤田保健衛生大学病院
平成七年一二月六日から平成八年八月二三日まで入院(二六二日間)
<3> 彦根中央病院
平成八年八月二三日から平成一一年五月七日まで入院(九八八日間)
<4> 市立長浜中央病院
平成一一年五月七日から同月三一日まで入院(二五日間)
5 診断等
原告一生は、本件事故により、頭部外傷Ⅲ型、意識障害等の傷害を負い、平成一〇年四月二二日に症状固定した旨の診断を受けたが、意識障害、四肢麻痺等の症状が残った。
原告一生は、自算会から、後遺障害別等級表一級三号に該当する後遺障害を残した旨の認定を受けた。
6 損害のてん補
<1> 自賠責保険 三〇〇〇万円
<2> 被告から治療費等の支払 一一二六万六五六八円
<3> その他 一七〇万円
二 争点
本件の争点は、(1)本件事故態様及び過失割合、(2)損害額である。
(1) 事故態様等(争点(1))について
(原告らの主張)
被告坂口は、本件事故現場に向かって直線道路を時速九三kmないし一〇〇kmで進行中、進路左前方約一一八・五m先の左側路側帯付近を同一方向に進行中の本件自転車を認め、その右側を追い抜こうとしたが、車道が片側三・〇m(両方で五・九m)のきわめて狭い道路であり、かつ、前方に横断歩道があったのであるから、被告坂口は、本件自転車が道路を横断する可能性を十分予測できた。
したがって、被告坂口は、十分に減速した上、あらかじめ警音器を鳴らすなどして自車の接近を本件自転車に知らせて、その安全を確認しながら進行すべき注意義務があった。
それにもかかわらず、被告坂口は、本件自転車は自車進路上に進出することはないと軽信し、警音器をならさず、単にアクセルペダルから右足を離したのみで(時速八三ないし九〇kmに減速したのみで)、本件自転車の安全確認をせず、漫然と、制限速度の時速五〇kmを大幅に超過する速度で進行した過失がある。
また、本件自転車は衝突時、既にセンターライン付近まで横断しており、被告車両はブレーキを踏むなりハンドルを左に切るなりして、回避措置がとれたはずであるのに、被告坂口はブレーキ操作やハンドル操作において何ら適切な措置をとっていない。
一方、原告一生は、被告車両の三四・四ないし三九・一m手前で横断を開始したのであり、一般に時速五〇kmの自動車の停止距離は空走距離を含めて二四・五mであることに鑑みれば、後続車両との間に十分な距離をおいて横断したといえる。しかも、原告一生は、車道に入ってすぐに後ろを振り向いており、横断者としてするべきことをしていた。
よって、本件は過失相殺をすべき事案ではなく、むしろ被告坂口の重過失に基づく事故として慰謝料を増額すべきである。
(被告らの主張)
被告車両の本件事故時の速度は時速七〇kmであった。また、被告坂口は本件自転車に気付いてから、本件自転車が車道に入ってくるかもしれないと考え、被告車両をセンターラインよりに寄せている。この措置によって、被告車両の左端と本件自転車との距離は約一m以上開いた。また、本件自転車が横断した付近には民家があるのみで、また、さらに先には横断歩道があったから、本件自転車がこのような地点で横断をはじめることを予見するのは不可能であった。
さらに、被告坂口は原告一生が車道に進入した際に、すぐにハンドルを右に転把したが、同時に急ブレーキもかけたため、車輪がロックしてしまい、ハンドル操作ができなくなり、本件自転車との衝突を避けることができなかった。したがって、被告坂口はハンドル操作やブレーキ操作を誤っておらず、むしろ適切な操作をおこなった。
一方、本件道路は、通行量の多い幹線の国道であったから、原告一生は、横断歩道(原告一生が横断を開始した地点から約二五m先にある。)を通って安全に横断すべきであった。また、道路を横断する際には、左右の安全を十分に確認して横断を開始する義務があるにもかかわらず、これを怠り、急に横断を開始した。さらに、原告一生は斜めに横断しており、道路を横断する際には最短距離を横断すべき義務にも違反している。以上、原告一生の過失は五〇%を下らない。
(2) 損害額について
(原告らの主張)
<1> 治療関係費
ⅰ 治療費と症状固定日までの部屋代(争いがない) 一一二六万六五六八円
ⅱ 症状固定日から退院までの部屋代 四〇七万八七二五円
症状固定後も、症状改善やリハビリのために入院が必要不可欠であり、特に重度後遺症が残った場合には自宅介護の準備段階として、一定期間の入院は必要である。
ⅲ 文書料 一万六三九〇円
ⅳ 医師等への謝礼 三五万〇〇〇〇円
<2> 入院付添費 二二〇一万八〇〇〇円
ⅰ 平成七年一一月一一日から同年一二月二三日まで
市立長浜病院入院時から藤田保健衛生大学病院でのICU、頸椎埋込み手術及びそのケアの日まで四三日間の介護については、原告一生が生命の危険が続く状態であり、重篤な症状であり、両親が休業し、二四時間付き添っていたのであるから、この付添費用として、一人一日五〇〇〇円が相当である。
(計算式)
五〇〇〇円×二人×四三日=四三万円
ⅱ 平成七年一二月二四日から平成八年八月二三日までの二四四日間(藤田保健衛生大学病院の個室入院時)。
この間は、病院は完全介護体制であったが、頸椎埋込み手術の影響もあり、痰の出が予想を越えて多く、痰取りを両親がせざるを得なかったり、エビ反り状態が続くためにマッサージを常時する必要があった。このためほぼ毎日両親は、介護作業を看護婦とともに、あるいは単独で行っていた。したがって、病院側の介護を補って介護していたものとして、介護費は一日あたり一人七〇〇〇円が相当である。
(計算式)
七〇〇〇円×二人×二四四日=三四一万六〇〇〇円
ⅲ 平成八年八月二四日から同年九月九日までの一七日間(彦根病院入院当初)。
家事的介護作業は病院側もしていたが、真夜中を含めて二四時間のほとんどのすべての介護作業は原告一生の両親がなした。
よって、この一七日間の介護は一人一日分一万三〇〇〇円が相当である。
(計算式)
一万三〇〇〇円×二人×一七日=四四万二〇〇〇円
ⅳ 平成八年九月一〇日から平成一〇年四月二三日の五九一日間(彦根病院老人病棟個室入院期間)。
この間は病院の介護がなく、両親が独力で二四時間介護しているのであるから、家事的介護及び真夜中の介護、医療行為(対向変換、マッサージ等)等も含まれるため、一人一日分一万五〇〇〇円が相当と思われる。
家族の介護は事実上職業付添人よりもハードな仕事であることが多いが、その反面職業付添人よりも安く評価されていることは不合理である。
(計算式)
一万五〇〇〇円×二人×五九一日=一七七三万円
<3> 将来の介護費用について
原告一生に残った後遺障害は、遷延性意識障害、四肢麻痺であり、いわゆる植物人間状態である。植物人間とは、人が脳に損傷を受けた後に、六項目(ⅰ自力移動不可能、ⅱ自力摂食不可能、ⅲ屎尿失禁状態、ⅳたとえ声は出せても、意味のある発語不可能、ⅴ「目を開ける」などの簡単な命令に、かろうじて応じることもあるが、それ以上の意思疎通は不可能、ⅳ眼球はかろうじて動くが、物を追っても認識できない。)の状態に陥り、改善がみられないまま三か月以上経過した状態をいうが、原告一生は以上六項目のすべてに該当し、現在も改善がみられない状態である。
いわゆる植物状態患者の状態の良否は、ⅰ発熱の有無、ⅱ嘔吐の有無、ⅲ痰が絡むか否かの三点でみるが、原告一生はいずれも非常に安定した状態にある。原告一生について、適切な介護がなされれば、危険因子はなくなるし、逆に一般人が悩む問題で内臓を悪くすることもないし、飲酒で体を壊すこともなく、自殺することもない。したがって、推定余命は一般人と変わるものではない。
しかし、原告一生は意識が戻っていない植物状態のため、二四時間の介護を強いられ、その内容は想像を絶するものである。二四時間介護の実態は、専門の看護婦がするのと全く同じであり、一般の介護知識や看護知識のないヘルパーに任せられるような仕事ではない。しかも、この質の高い介護は、常時監視も必要な体力のいる介護である。主な作業としては、摂食介護作業、失禁に対する介護、体位交換作業、体温調節のための介護作業、痰をとる介護作業、マッサージ作業、入浴作業がある。
痰の吸引作業、摘便作業、血圧測定、体温測定等は医療行為であり、かつ、日常続けなければならない作業であるから、一週間に二回看護婦が来るのみでは足りない。また、マッサージ作業、体位交換作業は人体に触れる作業であるから、二級ヘルパーの資格を有する者しかできない。
夜間の介護については、体位交換と体温調整であっても、起きていなければならず、体力と神経を使う仕事である。加えて、おむつ交換等の作業も必要である。
中間利息の控除については、現在の預金金利の実情をふまえ、損害分担の公平の理念から、年二%として計算されるべきである。
以上により、原告一生の将来の介護費用は次のとおり、合計七億二〇八三万三〇二五円である。
ⅰ 平成一〇年四月二二日から平成一一年五月三一日までの四〇五日間(症状固定日以降自宅介護まで)。
原告一生は、原告憲昭及び同芳美の両名の交代制による一日二四時間の介護を受けていたものである。よって、一人あたり一日一万五〇〇〇円が相当である。
(計算式)
一万五〇〇〇円×二人×四〇五日=一二一五万円
ⅱ 自宅介護以降
職業付添人による介護ヘルパーが、少なくとも常時一人、原告一生の自宅介護開始より余命期間まで付いてもらう必要がある。職業付添人一人一日昼間八時間二万〇六一〇円(看護資格あり)であるが、控えめにこれを一万五〇〇〇円とする。また、夜間要員も必要であるが、これも少なくとも一万五〇〇〇円を下回ることはない。したがって、昼間・夜間要員合わせて一日三万円となる。
原告一生の介護は、職業付添人が一人いるだけではできないので、原告芳美の介護が必要である。この場合、常時職業付添人と原告芳美との二人体制が必要であり、この間の原告芳美分の付添介護費は、二四時間自宅にいて介護するのであるから、やはり一日一万五〇〇〇円が相当である。
原告一生は、昭和五四年六月一一日生まれで、平成一一年六月一日時点では一九歳であり、平均余命は五八・一一年である。
原告芳美は、原告一生の症状固定時に四三歳であり、原告芳美が付添い可能な期間は、六七歳までの二四年間であり、その後の残りの原告一生の平均余命三四年間は看護婦資格を有する職業付添人二人が必要である。
(計算式)
四万五〇〇〇円×三六五日×一九・四四一十三万円×二人×三六五日×(三七・七七三-一九・四四一)=七億二〇八三万三〇二五円
<4> 交通費、入院雑費、介護雑費等
ⅰ 入院雑費 一九四万七〇〇〇円
一般の入院雑費は、入院期間にわたり、一日一五〇〇円が相当である(入院中は布オムツによっているため紙オムツ代は請求しない。)。
(計算式)
一五〇〇円×一二九八日=一九四万七〇〇〇円
ⅱ 将来の雑費 三七六四万〇八九八円
原告一生は、常時他人の介護を必要とし、通常は必要としない特別の出費が必要である。特に自宅介護のためには、一日一二三〇円の紙オムツ代と、一般の雑費として一日一五〇〇円が必要である。
(計算式)
二七三〇円×三六五日×三七・七七三=三七六四万〇八九八円
ⅲ 通院交通費 二八万八五六〇円
高速代 四万六〇〇〇円
ガソリン代 一二万七四一〇円
藤田保健衛生大学病院と滋賀県伊吹町の自宅を往復するための高速道路代金や本件事故関係での車使用の費用である。
原告憲昭及び同芳美は、病院の付添用の個室で寝泊まりしたが、損害保険会社、役所、高等学校、警察署、病院等へ、各種書類の取り寄せ等で車を使用したのであり、その際に要したものも含む。
駐車代 四万〇一五〇円
藤田保健衛生大学病院の有料駐車場を利用したが、高くつくため、同病院の近くの民営駐車場を利用したものである。
転院費 七万五〇〇〇円
市立長浜病院から藤田保健衛生大学病院への市立長浜病院救急車の費用と、藤田保健衛生大学病院から彦根中央病院へのタクシー代である。
ⅳ 宿泊費 四万二九八〇円
患者家族仮眠室利用料 一万四〇〇〇円
ホテル代 二万八九八〇円
藤田保健衛生大学病院に入院中、原告憲昭及び同芳美は、同病院の仮眠施設を利用した。ただし、当初は満室で利用できなかったため、同病院の近くのビジネスホテルを利用した。
ⅴ 補助食品代 三万一七二四円
本件事故直後、経管摂取では繊維質が摂取できなかったため、約一ヶ月くらい便が出なかった。そこで、藤田保健衛生大学病院の婦長より補助食品DFセブンを勧められ、同病院入院中は毎日使用し、それにより少しずつ症状は改善された。
ⅵ 治療器具、補助器具代 五万二八八四円
ビーズパット、ナーシングラック円座等購入費
自力で動けない患者にとっては、床ずれが発生しやすいが、体にかかる圧力を分散してそれを防止する用具である。
<5> 将来の介護用具等
ⅰ 車椅子 二九二万三二七五円
一九万四八八五円、四年ごと一五回買換え
ベッド上での生活がほとんどであるため、生活機能回復、生活行動範囲の拡大、外的刺激による意識状態の改善、リハビリには車椅子での行動が必要である。また、治療、デイケア等での移動にも必要である。
ⅱ 自動車購入費 三三六〇万六二七〇円
三七三万四〇三〇円、七年ごと九回買換え
自宅で寝たきりで療養する場合には、外出することが不可欠となる。デイサービス(介護施設での入浴や食事をする。)、デイケア(介護施設や病院でリハビリをする。)、ショートステイ(介護施設で数日間宿泊する。)や、定期的な病院の検査等のため外出が必要になるが、車椅子のままで乗降できる車両が必要である。原告らが住む滋賀県長浜市のタクシー会社にはこのような車両が一台しかなく、しかも二週間前に予約が必要であり、日常的に使用することが困難であるから、原告らで所有する必要がある。
ⅲ 浴槽設置費 二六八万二〇〇〇円
四四万七〇〇〇円、一〇年ごと六回設置
体を伸ばしたままの状態で入浴できるための特別の浴槽が必要である。
ⅳ キューマアウラベッド 二〇四万円
二五万五〇〇〇円、八回買換え
日常使用するベッドで、全体に上下したり、上半身が持ち上がって食事をしやすくしたりし、介護者の負担(シーツ交換、着替え、体位交換等で腰に負担がかかりやすい。)を軽減するために必要である。通気性が良く、清潔でほこりをかぶりにくく、視線の高さを変え、視野の拡大をはかることにより、原告一生にとっても刺激と変化を与えるものである。
ⅴ ベッドサイドテーブル 三八万八〇〇〇円
四万八五〇〇円、八回買換え
食事のためのテーブルで、ベッドの横からベッドにかぶさる形になるものであり、必要なものである。
ⅵ ニューサマットレス 三七万五〇〇〇円
二万五〇〇〇円、一五回買換え
床ずれ予防用の構造を持ったベッド上に置くマットレスで、必要なものである。
ⅶ 防水シーツ 九万七五〇〇円
六五〇〇円、一五回買換え
失禁者用に、マットレスに巻き込み、敷き布団に滲まないように用いるもので、必要なものである。
ⅷ メーキング三点セット 二九万二五〇〇円
一万九五〇〇円、一五回買換え
ボックスシーツ、マットレスパッド、ピロケースで取り扱いを容易にしたものであり、必要なものである。
ⅸ 洗髪器 二七万円
一万八〇〇〇円、一五回買換え
寝たままで洗髪できる器具であり必要なものである。入浴は一週間に一、二回入るが、二、三日で頭が脂ぎり、フケも出るためである。
ⅹ エアドクターセット 一四五万五〇〇〇円
九万七〇〇〇円、一五回買換え
マットレスの上に乗せ、電動式ポンプと接続させ、マイコンで最適な圧力を自動管理し、体圧を分散する床ずれ防止マットであり、必要なものである。
ⅹⅰ ビーズパッド 二五万六五〇〇円
一万七一〇〇円、一五回買換え
ⅹⅱ ナーシンググラック円座 一五万円
一万円、一五回買換え
ⅹⅲ イリガートル掛金具 一三万五〇〇〇円
九〇〇〇円、一五回買換え
点滴、水分補給等の際上から吊す容器及び管であり、必要なものである。
ⅹⅳ 吸引機(ハイ・ミニック) 九二万九二五〇円
六万一九五〇円、一五回買換え
原告一生のように気管切開をしている者には必須の器具である。痰や食事の食べ滓、鼻水等を吸引するのに使用する。
<6> 逸失利益 一億七八五七万三八四一円
原告一生は、本件事故当時一六歳の健康な高校生であり、症状固定当時は一八歳であった。そして、後遺障害別等級表一級三号に該当する後遺障害が残り、原告一生はその労働能力を六七歳まで四九年間にわたり一〇〇%喪失した。よって、平成九年賃金センサス産業計・企業規模計・学歴計の男子労働者の全年齢平均年収額を基礎とし、中間利息を控除した額が相当である。なお、中間利息は、年二%のライプニッツ係数により控除されるべきである。
(計算式)
五七五万〇八五〇円×三一・〇五二=一億七八五七万三八四一円
<7> 慰謝料
ⅰ 原告一生の慰謝料
入通院慰謝料 五〇〇万円
原告一生は、事故日の平成七年一一月一一日から平成一〇年四月二二日の症状固定まで二年六ヶ月の入院生活を余儀なくされており、これに対する慰謝料は五〇〇万円が相当である。
後遺障害慰謝料 三〇〇〇万円
原告一生は、事故当時一六歳の健康な高校生(一年生)であった。地元の県立高校に通学し、クラブは卓球部に在籍し、勉強にクラブに充実した日々を送っていた。小さいときから病気らしい病気をしたことがなかった。将来の希望に満ち、まさに前途洋々たるものであったのに、被告坂口の不注意な運転によりいわゆる植物人間になってしまったのであり、その将来を一瞬にして奪われた精神的苦痛、悲しみ、無念さはとても言葉には表せない。事故当時の肉体的苦痛も想像を絶するものである他、事故後いまだに意識不明の状態であり、常時四肢をマッサージしないと緊張が生じ痙攣状態になる状況であり、推測される苦痛は甚大なものである。
ⅱ 近親者固有の慰謝料
原告憲昭、同芳美分 各六〇〇万円
原告一生は原告憲昭、同芳美の一人息子であり、誕生以来その愛情をすべて原告一生に注ぎ込んできた。その大事な息子を一瞬にして、いわゆる植物状態にされた失意と精神的苦痛は、筆舌に尽くしがたい。さらに、原告一生の介護のための同人らの精神的、肉体的負担は大きい。原告憲昭、同芳美の固有の慰謝料は少なくとも各自六〇〇万円を下らない。
<8> 弁護士費用
ⅰ 原告一生分 五四〇〇万円
ⅱ 原告憲昭、同芳美分 各六〇万円
<9> 確定遅延損害金 三九六万五七五三円
三〇〇〇万円の九六五日分の遅延損害金
(被告らの主張)
<1> 治療関係費等
原告ら主張の文書料については、その内容が明らかではなく、必要性も認められない。
症状固定後の部屋代については、将来の介護費用に含まれる。
医師への謝礼は相当額によるべきである。
入院した病院は完全介護であり、原告一生の診断書には付添が必要であるとの記載はないから、付添費は不要である。仮に必要であったとしても、母親一人の付添で十分である。
<2> 介護費用
原告一生の症状は、初期の重篤な状況を脱し、安定しているとしても、依然として植物状態である。また、原告一生が現在食事を経口摂取しているとしても、誤飲によって食事が気管に入り、窒息などの症状を呈するおそれは依然として存在する。さらに、肺の合併症のおそれが極めて高く、排便のコントロールができずに合併症を惹起する可能性もある。
また、脳損者への介護料支給の実態を集計した資料(乙三〇)によれば、一〇歳代の脳損者で一〇年未満で死亡した者の合計は一〇八人であり、一〇歳代の全死亡者一三六人のうち実に七九・四%を占めている。また、脳損者の経過状況をみると、二〇年から二一年未満までしか欄がなく、それ以上経過した者がいないのが現状である、さらに、一〇歳代で脱却した者のうち、四から五年未満で脱却した者は六四名であり、総数の八二%をしめる。原告一生は事故後四年以上経過しており、脱却する可能性は極めて低い。
以上によれば、原告一生の推定余命は、二〇年から二五年とすべきであり、それ以後の介護費用は不要である。
付添については、母親とパートタイムの付添人で十分である。原告一生は現在市立長浜病院の訪問看護と訪問診療を受けているのであるから、原告主張のように看護婦資格を有した付添人は必要ではない。また、夜間介護の現状も体位交換(四時間おき)と体温調整だけでよく、オムツの交換も夜間に一回であるから、介護がかなりの程度軽減されている。
原告らは、ⅰ自動車事故対策センターから介護料として日額四五〇〇円、ⅱ長浜市から特別児童福祉手当、特別障害者手当(二万六八六〇円)、援護激励手当(年額一万円)、育成福祉年金(年額一万五〇〇〇円)の支給を受け、ⅲ社会保険事務所から平成一一年六月から障害基礎年金の支給を受けている。少なくとも障害基礎年金は受給が確定しているものであり、損益相殺の対象として控除すべきである。また、その他のものについても将来の介護費等の算定にあたっては斟酌されるべきである。
中間利息は年五%の割合で控除されるべきである。
<3> 入院雑費・介護雑費
症状固定後の入院雑費は失当である。
将来の雑費については、一般の雑費だけで十分である。
<4> 交通費等
原告ら主張の補助食品費、治療器具、補助器具費については、入院雑費で評価済である。
通院交通費、宿泊費については、入院付添費用で評価済みである。
<5> 将来の介護用具
原告一生の通院は車椅子で行われており、自動車購入の必要性はない。また、現在も車両を使用していない。
介護ベッド、マットレス、吸引器、車椅子等について公的補助を受けており、原告主張のような介護用具費用は発生していない。
浴槽設置については、買換え回数が多すぎる。推定余命の範囲内での買換え回数によるべきである。
その他の介護用具についても、推定余命の範囲内での買い替え回数によるべきである。
<6> 逸失利益
推定余命は、二〇年から二五年であり、生活費控除を五〇%とすべきである。また、中間利息控除率は年五%によるべきである。
<7> 慰謝料
慰謝料は相当額によるべきである。
近親者の慰謝料については、既に原告一生分として相当額を主張しており、これに包含されるべきである。仮に認められるとしても相当額によるべきである。
<8> 確定遅延損害金
原告らは、恣意的に症状固定をしたとして、自賠責保険金を請求したものであるから、被告らがこの期間の遅延損害金を賠償するべき義務は存在しない。
第三 当裁判所の判断
一 事故態様等
証拠(甲一ないし六、一一、一二、三六、三七の一ないし二〇、甲五〇の一ないし七、甲五四、一〇六の一ないし四、甲一〇八、乙一、二、被告坂口)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
本件事故現場付近の概況は、別紙図面記載のとおりであり、ほぼ東西にのびる国道三六五号線の通称高番交差点から西方約三〇〇mの地点である。現場道路は、片側一車線の直線道路であり、車線区分は黄色(追越しのための右側部分はみ出し禁止規制標示)により区分され、道路両側には、白線で標示された外側線によって、路側帯が設けられている。車道部分の幅員は、片側約三mである。また、最高速度は時速五〇kmに規制されている。本件事故地点(別紙図面<×>地点)から東方約二〇mの地点には横断歩道が設置されている。道路の周囲は、左右とも雑木林や民家があり、東西からの進行に対し視界を妨げるものはなく、前方に対する見通しは良好である。本件事故当時、夕方で薄暗い状況であったが、前照灯を点灯していなくても車両から前方約二〇〇mは十分見通せる状態であった。また、本件事故当時、本件事故現場を通過する車両は少なく、対向車両も途切れていた。
被告坂口は、被告車両を運転して(前照灯は点灯せず。)、西から東へ本件事故現場に向かって時速約八〇kmで進行中、別紙<1>の地点において、前方一一八・五mの本件道路路側帯付近(別紙図面<ア>)を自車と同一方向(西から東)に進行している本件自転車を発見した。本件自転車は、車道に少しはみ出して走行していた。被告坂口は、本件自転車をその右側から追い抜こうと考え、アクセルペダルから足を離して進行し、別紙<1>地点から約一一八・四m進行した別紙<2>地点において、約二五・七m前方にいた本件自転車(別紙図面<イ>)が急に斜め横断を開始したのに気付いた(その地点の速度は時速約七〇km)。そこで、被告坂口は、被告車両につき、右にハンドルを切り、急ブレーキをかけたが、道路中央線をまたいだ状態でスリップしたため、被告車両左前角から前部左付近が、道路中央線近くまで進行した本件自転車右側面中央付近に衝突した(別紙<×>地点)。その後、被告車両は半回転スピンして、別紙図面<3>地点で停止した。本件事故現場に残ったタイヤ痕の長さは、左後輪タイヤ痕が三六・九m、右後輪タイヤ痕が二一・七m、右前輪タイヤ痕が一八・九m、左前輪タイヤ痕が六・七mであった。
一方、原告一生は、本件自転車を運転し、本件道路路側帯付近(本件自転車の右ハンドル部分は若干路側帯から車道にはみ出していた。)を走行していたが、道路を右側に横断しようと考え、後方を十分確認しないまま、別紙図面<イ>地点で急に斜め横断を開始したため、前記のとおり被告車両と衝突するに至った。
上記認定の事故態様からすれば、被告坂口は、本件自転車を発見し、その右側を追い抜こうとしたのであるから、本件自転車が車道に進入することをも予測して、本件自転車の動静を注意し、安全に追い越しができるような速度で、適宜クラクションを鳴らす等して本件自転車の運転者の注意を喚起しながら進行すべき注意義務があるにもかかわらず、それを怠り、漫然と制限速度時速約五〇kmのところを時速約七〇kmの速度で進行した結果、本件自転車が車道へ進入した際に適切に対処できず、衝突を回避できなかったのであるから、被告坂口には相応の注意義務違反がある。一方、原告一生も本件道路を横断する際には、後方の安全を十分確認してから横断すべきであるのに、後方を十分確認せずに急に斜め横断を開始したものであり、原告一生の過失も小さいとはいえない。以上を前提に被告坂口と原告一生の過失割合を検討すれば、披告坂口は、外側線付近を走行している本件自転車を見つけながら、十分に減速せず、また、車間距離を保つなどの安全確認をしないで漫然と走行を続けたのであり、また、制限速度を守って走行していれば衝突を避けられたと考えられることを考慮すると、被告坂口の過失が相当に大きいというべきであるので、被告坂口の過失を七五%、原告一生の過失を二五%と認めるのが相当である。
二 損害
1 前提問題
(一) 症状経過・生活状況
証拠(甲七の一、二、甲八ないし一〇、一四の一、二、甲一五、甲一六の一ないし一七、甲一七、甲一八の一ないし六、甲一九の一ないし四、甲二〇、二一、三二、三九の一ないし三、甲四〇、七四、七七の一、二、甲七九の一、二、甲九四、九五、九九ないし一〇一、一〇三の一ないし三、乙一九ないし二六、二九、三一ないし三三、原告小坂憲昭)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
原告一生は、平成七年一一月一一日の本件事故後、直ちに救急車で市立長浜病院に搬入され、同病院に二六日間入院した。同病院では、頭部外傷Ⅲ型と診断され、意識レベルは、いわゆる半昏睡であり、四肢麻痺も認められた。受傷当日の頭部CTで、右前頭部の頭蓋骨骨折とともに、右中脳背側に少出血がみられた。また、四〇℃を超える高熱や頻脈などの自律神経症状も認められた。原告一生は、びまん性軸索損傷と診断され、バルビツレート療法等保存的治療を受けるが、明らかな意識の改善は認められなかった。
上記入院期間中、原告憲昭及び同芳美は交代で原告一生のそばに付き添い、氷枕を交換する等の作業を手伝った。なお、原告憲昭は、本件事故後、会社を休職し、四ヶ月間の給料の支給を受けたが、その後、給料を受け取ることなく退職した。また、原告芳美は、本件事故後、パートタイマーの仕事を辞めている。平成七年の原告憲昭の年収は四五四万〇四二一円であり、原告芳美の収入は七六万二九一五円であった。
原告一生は、平成七年一二月六日、藤田保健衛生大学病院脳神経外科に転院し、同病院に二六二日間入院した。同病院において、同月二〇日、頸椎刺激装置埋込み手術がなされ、以後、意識障害を改善する目的で脊髄電気刺激療法が行われたが、意識障害の明らかな改善は認められなかった。同病院退院時の神経症状は、開眼あるも意思の疎通はほとんどなく、四肢は拘縮変形を伴う四肢麻痺であった。また、経管栄養、気管カニューレ挿入等全介助の状態であった。
藤田保健衛生大学病院は、完全介護体制であったが、原告憲昭及び同芳美は、原告一生に付き添い、マッサージ、体向変換、痰の吸引作業等をなし、病院による介護を補った。
その後、原告一生は、平成八年八月二三日、彦根中央病院に転院した。同病院での入院期間は、一般病棟に一七日間、老人病棟に九七一日間であった。同病院では、点滴及びリハビリによる保存的治療がなされたが、明らかな意識の回復はなく、遷延性意識障害の状態が続いたまま、平成一〇年四月二二日に症状固定の診断を受けた。ただし、平成八年九月ころより経口摂取を開始し、その後徐々に経口摂取の割合が増加するとともに、経管摂取の割合が減少した。また、平成九年三月にはリハビリのための車椅子を作成した。症状固定時の状態は、四肢麻痺、関節拘縮あり、気管切開、経鼻栄養を施行しており、寝たきり状態であり、日常生活全面に介助を要する状態であった。
彦根中央病院入院中は、看護婦による介護もなされたが、原告憲昭及び同芳美が原告一生に付き添って主に介護し、マッサージ作業、痰の吸引作業、摂食作業、清拭作業、摘便作業、体温調整作業、体位交換作業、おむつ交換作業、等の介護をした。
原告一生は、平成一一年五月七日に彦根中央病院を退院し、自宅介護体制の準備のため、同日より市立長浜病院に二五日間入院した。その際、胃管を外し、経管栄養摂取をやめ、経口摂取により、食事、水分、薬をとるようになった。
原告一生は、同月三一日に市立長浜病院を退院し、その後自宅介護を続けている。自宅介護になってから、車椅子で市立長浜病院にリハビリ(一回三〇ないし四〇分)のため通院しているが、その際、長浜市福祉協議会のホームヘルパー(原告憲昭に収入がないため無償)が、月曜日に一名、水曜日に二名来て同行している。また、長浜市民病院の訪問診療(採血・採尿・カニューレ交換)を週に一回受けるとともに、看護婦二から三名による週二回程度の訪問看護(入浴等)を受けている。さらに、長浜市シルバー人材センターから毎日交代でホームヘルパーが来て、日中(午前九時から午後一時、午後二時から午後六時三〇分まで)、主に家事作業をしている。
また、原告らは、自動車事故対策センターから平成八年七月ころより平成九年九月ころまで日額四〇〇〇円、平成一一年六月ころから日額四五〇〇円の給付を受けている他、平成一一年六月ころより障害基礎年金(年額約一〇〇万円)を受給している。さらに、長浜市から特別児童扶養手当、障害児福祉手当、特別障害者手当、援護激励金、育成福祉年金等の支給を受けている。
(二) 推定余命
前記認定の原告一生の症状等からすれば、本件事故による脳の器質的障害により、生命維持について特段の障害があるとは認められない。また、感染症等に罹患する危険性については、その危険性が通常人よりは高いとはいえ、それを考慮した介護がなされていれば、その危険性は回避できるものといえる。
この点、被告らは、原告一生の推定余命を二〇年から二五年と主張し、医師の意見書(乙二九)、脳損者への介護料支給の実態を集計した自動車事故対策センターの資料(乙三〇)を一つの根拠とする。しかし、上記意見書によっても、原告一生が二〇ないし二五年後に死亡すると推定することにつき合理的な裏付けがあるとは認めがたい。また、事故対策センターの資料は、過去一定期間についての統計にすぎず、しかも、そのサンプル数は極めて少ないものであるところ、今日の脳損者を巡る医療の進歩を考慮すれば、脳損者の余命を一般人より制限するについて、十分な合理性があるとはいえない。他に、原告一生の推定余命を一般人より制限すべき具体的な事情は認められないから、被告らの主張は採用できない。
したがって、平成七年度簡易生命表男子平均余命に照らし、原告一生の推定余命を事故時の一六歳から七七歳までの六一年間とするのが相当である。
2 損害額
<1> 治療費・部屋代・文書費用等 一五四六万一六八三円
治療費及び部屋代(症状固定日まで)として、一一二六万六五六八円が支払われたことについては争いがない。
症状固定後の部屋代につき、上記認定の原告一生の症状経過を考慮すれば、症状固定後退院までの部屋代も必要な費用と認めるのが相当であるところ、証拠(甲九六の一ないし一六)によれば、合計四〇七万八七二五円の部屋代を要したものと認められる。
また、証拠(甲二二)によれば、文書料として一万六三九〇円を要したことが認められる。
なお、医師等に対する謝礼の支払は、患者が任意にするものであることを考慮し、一〇万円の限度で、本件事故と相当因果関係がある損害と認める。
(計算式)
一一二六万六五六八円+四〇七万八七二五円+一万六三九〇円+一〇万円=一五四六万一六八三円
<2> 入院付添費・将来の介護費 六七二八万九二一〇円
上記認定の原告一生の症状経過及び付添看護の状況からすれば、病院は一応完全介護体制であるが、実際には家族の補助が必要であり、本件事故日から原告一生が退院するまでの間、原告一生の両親である原告憲昭及び同芳美がほぼ毎日二四時間の付添をしたことが認められるところ、入院期間中の相当な付添看護費として一日あたり八〇〇〇円と認めるのが相当である。
また、上記認定の原告一生の症状経過等からすれば、原告一生が自宅介護になってからは、昼間の介護については、常時一人の介護者及び経口摂取、摘便等を補助する介護者が必要であるものと認められる。夜間については、体位交換、体温調節、おしめの交換、痰の吸引作業が必要であるが、昼に比べると負担が小さいと認められる。したがって、昼間は一人による常時介護とこれを補助する作業、夜間は一定の介護が必要であり、その期間については、前記のとおり、退院から五八年間(入院期間を三年とする)の介護が必要と認めるのが相当であるが、介護の期間が長期に亘ること、原告一生に対する介護の必要性や程度が今後変化する可能性があることなどを考慮し、損害の公平な分担という観点から、その費用については、一日一万円と認めるのが相当である。
中間利息については、年五%のライプニッツ方式で控除するのが相当である。
事故時からの推定余命期間である六一年間の年五%のライプニッツ係数は、一八・九八〇であり、入院期間である三年間の年五%のライプニッツ係数は、二・七二三である。
よって、原告一生の入院付添費及び自宅介護費用は、以下の計算式のとおりとなる。
(計算式)
八〇〇〇円×三六五日×二・七二三+一万円×三六五日×(一八・九八〇-二・七二三)=六七二八万九二一〇円
<3> 交通費等 三三万一五四〇円
証拠(甲二五、二六)によれば、通院交通費二八万八五六〇円、宿泊費四万二九八〇円を支出したことが認められ、損害として認められる。
<4> 入院雑費・介護雑費 一〇一九万二七七一円
上記認定の原告一生の症状経過等からすれば、原告一生の入院期間中の入院雑費として一日一三〇〇円を要したものと認められる。
自宅介護中の諸雑費については、原告一生の前記認定の症状経過等を考慮すれば、退院後もおむつなどの雑費の支出が必要と認めるのが相当である。そして、その額は、一日あたり一五〇〇円が相当である。なお、入院期間を三年として計算する。
(計算式)
一三〇〇円×三六五日×二・七二三+一五〇〇円×三六五日×(一八・九八〇-二・七二三)=一〇一九万二七七一円
<5> 介護用具等
ⅰ 補助食品代 三万一七二四円
証拠(甲二六の二)によれば、原告一生の補助食品代として、平成八年に合計三万一七二四円を支出したと認められるところ、原告一生の症状からすれば、本支出は必要かつ相当であったと認めるのが相当である。
ⅱ ビーズパット・ナーシングラック円座 二七万四〇四四円
証拠(甲二六の三、甲五六の一、二)によれば、平成八年九月に、ビーズパット、ナーシングラック円座購入費用として、合計五万二八八四円支出したことが認められ、原告一生の症状からすれば、いずれも介護に必要な支出と認めることができる。
また、耐用年数については、証拠(甲三八)及び弁論の全趣旨からすれば、いずれも四年と認めることが相当である。したがって、今後、さらに平成一二年より一五回購入すると認められるから、費用は以下の計算式のとおりとなる。
(計算式)
五万二八八四円×(一+〇・七八四+〇・六四五+〇・五三〇+〇・四三六+〇・三五九+〇・二九五+〇・二四三+〇・二+〇・一六四+〇・一三五+〇・一一一+〇・〇九二+〇・〇七五+〇・〇六二+〇・〇五一)=二七万四〇四四円(一円未満切捨て)
ⅲ 介護ベッド等(キューマアラウベッド・ベッドサイドテーブル・ニューサマットレス・防水シーツ・エアドクターセット) 合計五九万四五五八円
前記認定の原告一生の症状及び介護状況からすれば、原告一生が自宅介護になってからは、介護ベット及びその付属品が必要と認められる。その費用は、証拠(甲三一の二、甲五七の一、甲五八ないし六一)によれば、以下のとおりと認められる。
介護ベット 二五万五〇〇〇円
マットレス 二万五〇〇〇円
防水シーツ 六五〇〇円
メーキング三点セット 一万九五〇〇円
原告憲昭の供述によれば、原告らは現在使用中の介護ベット費用を負担していないことが認められるが、今後も公的給付が得られることが確実であるとまではいえないから、将来の購入費用については、損害と認めるのが相当である。
各耐用年数について、証拠(甲三八)及び弁論の全趣旨によれば、介護ベッドについては八年、その他については、いずれも五年と認めるのが相当である。
なお、原告らは、以上の他に、サイドテーブル(甲五八)、エアドクターセット(甲六三)が必要と主張するが、以上に加えて、これらが特に必要と認めるに足りる証拠はない。
したがって、介護ベットについては、平成一九年から七回購入する必要性があり、その他の介護ベッド付属品については、平成一一年から、一二回購入するものと認められる。
(計算式)
二五万五〇〇〇円×(〇・五五七+〇・三七七+〇・二五五+〇・一七三+〇・一一七+〇・〇七九+〇・〇五四)=四一万一〇六〇円
(二万五〇〇〇円+六五〇〇円+一万九五〇〇円)×(〇・八二三+〇・六四五+〇・五〇五+〇・三九六+〇・三一+〇・二四三+〇・一九〇+〇・一四九+〇・一一七+〇・〇九二+〇・〇七二+〇・〇五六)=一八万三四九八円
ⅳ 洗髪器・浴槽設置費 合計九五万五五六九円
上記認定の原告一生の症状及び介護状況からすれば、原告一生が自宅介護となってから、洗髪器及び介護用の浴槽が必要と認められるところ、証拠(甲六二、六五)によれば、その費用として、洗髪器については一万五〇〇〇円、介護用の浴槽については四四万七〇〇〇円を要するものと認められる。証拠(甲三八)及び弁論の全趣旨によれば、その耐用年数については、洗髪器について五年、介護用の浴槽については一〇年とするのが相当である。原告憲昭の供述によれば、現時点では、これらをいまだ購入していないことが認められるが、いずれも、自宅介護では必要なものといえる。
したがって、洗髪器については、平成一一年から、一二回購入、介護用の浴槽については、平成一一年から六回購入する必要があるものと認められる。
(計算式)
一万五〇〇〇円×(〇・八二三+〇・六四五+〇・五〇五+〇・三九六+〇・三一+〇・二四三+〇・一九〇+〇・一四九+〇・一一七+〇・〇九二+〇・〇七二+〇・〇五六)=五万三九七〇円
四四万七〇〇〇円×(〇・八二三+〇・五〇五+〇・三一+〇・一九〇+〇・一一七+〇・〇七二)=九〇万一五九九円
ⅴ 吸引器 一七万一九一一円
前記認定の原告一生の症状及び介護状況からすれば、原告一生が自宅介護となってから、吸引器が必要と認められるところ、証拠(甲三一の三、甲三八、六四)及び弁論の全趣旨からすれば、その購入費用として、六万一九五〇円、耐用年数について五年と認めるのが相当である。原告憲昭の供述によれば、現在使用中の吸引器費用については、原告らが負担していないことが認められるが、今後も公的給付を受けられることが確実であるとまではいえないから、将来の購入については必要な損害と認めるのが相当である。
したがって、吸引器については、平成一六年から一一回購入する必要があると認められ、その費用は以下の計算式のとおりとなる。
(計算式)
六万一九五〇円×(〇・六四五+〇・五〇五+〇・三九六+〇・三一+〇・二四三+〇・一九〇+〇・一四九+〇・一一七+〇・〇九二+〇・〇七二+〇・〇五六)=一七万一九一一円(一円未満切捨て)
ⅵ 車椅子 七八万六三六〇円
証拠(甲一〇一、乙三二、原告憲昭)によれば、原告一生は、平成九年三月ころに車椅子を購入し、原告らの費用負担は約一割であったものと認められる。前記認定の原告一生の症状及び介護状況からすれば、車椅子の購入は必要であるものと認められる。証拠(甲三一の一、甲七八)によれば、車椅子購入費用は、一九万四八八五円、車椅子の耐用年数は四年と認めるのが相当である。
なお、車椅子については、将来的にも公的給付があり得るが、確実に給付されるか否かは未定であるし、公的給付を利用するかどうかは被害者の選択に委ねられるべきであるから、将来の公的給付を考慮することは相当ではない。
したがって、平成一三年から四年ごと、一四回車椅子を購入するものと認められるから、車椅子購入費用は以下の計算式のとおりとなる。
(計算式)
一九万四八八五円×(一×〇・一+〇・七四六+〇・六一四+〇・五〇五+〇・四一六+〇・三四二+〇・二八一+〇・二三一+〇・一九+〇・一五七+〇・一二九+〇・一〇六+〇・〇八七+〇・〇七二+〇・〇五九)=七八万六三六〇円(一円未満切捨て)
ⅶ 自動車購入費 四八七万円
前記認定の原告一生の症状及び介護状況からすれば、自家用車を車椅子のまま乗車できるものに買い換える必要性が認められる。ただし、原告憲昭供述によれば、原告らは現時点ではこれを購入していないことが認められる。証拠(甲二七の一、二、甲三八)及び弁論の全趣旨によれば、一回の車両購入費三七三万円のうち、本件事故と相当因果関係ある損害として、二〇〇万円を認めるのが相当である。また、平成一一年から八年ごと、八回買換えが必要と認めるのが相当である。
(計算式)
二〇〇万円×(〇・八二三+〇・五五七+〇・三七七+〇・二五五+〇・一七三+〇・一一七+〇・〇七九+〇・〇五四)=四八七万円
ⅷ その他
イリガートル掛金具については、それが必要であると認めるに足りる証拠はない。
<6> 逸失利益 九四七七万四〇〇八円
原告一生は、本件事故により後遺障害別等級表一級三号に該当する後遺障害を残し、労働能力を一〇〇%喪失したものと認められる。原告一生は、本件事故当時一六歳であったところ、本件事故に遭わなければ、一八歳から六七歳までの四九年就労可能であり、年収五七五万〇八五〇円(平成九年賃金センサス産業計・企業規模計・学歴計の男子労働者の全年齢平均年収額)を得ることができたと認められるので、ライプニッツ方式により年五%の中間利息を控除して逸失利益を算定すると以下の計算式のとおりとなる。
なお、被告らは生活費を控除すべきと主張するが、原告一生は今後も生命維持のための生活費の支出を要することは明らかであるから、逸失利益の算定に当たり、生活費を控除すべき理由はなく、被告らの主張は採用できない。
(計算式)
五七五万〇八五〇円×(一八・三三九-一・八五九)=九四七七万四〇〇八円
<7> 慰謝料
ⅰ 原告一生の慰謝料
入院慰謝料 四五〇万円
原告一生の症状経過、長期間にわたる入院状況からすれば、原告一生の入院慰謝料として、上記金額を認めるのが相当である。
後遺障害慰謝料 二五〇〇万円
本件事故態様及び原告一生の後遺障害の内容・程度、本件事故時の原告一生の年齢等を考慮し、原告一生の肉体的、精神的苦痛等を考慮すれば、原告一生の後遺障害慰謝料として、上記金額を認めるのが相当である。
ⅱ 近親者固有の慰謝料
原告憲昭、同芳美分 各二〇〇万円
一人息子が植物状態になってしまった原告憲昭及び同芳美の悲しみと落胆、原告一生を介護する精神的・肉体的負担等を考慮すれば、原告憲昭及び同芳美の固有の慰謝料として、上記金額を認めるのが相当である。
<8> 過失相殺
前記認定の過失割合に従い、原告一生の損害額(二億二五二三万三三七八円)から二五%を減額すると(原告憲昭、同芳美については、原告一生の過失を被害者側の過失として斟酌する。)、残額は、以下のとおりとなる。
原告一生分 一億六八九二万五〇三三円
(計算式)
二億二五二三万三三七八円×(一-〇・二五)=一億六八九二万五〇三三円(一円未満切捨て)
原告憲昭、同芳美分 各一五〇万円
(計算式)
二〇〇万円×(一-〇・二五)=一五〇万円
<9> 損益相殺
原告一生が、被告ら及び自賠責保険より合計四二九六万六五六八円の支払を受けたことについて、当事者間に争いがない。
また、被告らは、障害基礎年金を損益相殺の対象として控除すべきであると主張するが、本件において、原告一生が障害基礎年金として受給した額を確定することができないので、これを控除することができない。
その他の身体障害者福祉法に基づく給付、自動車事故対策センター法に基づく給付については、損害をてん補する趣旨で支給されるものではないから、損益相殺の対象とすることはできない。
よって、損益相殺後の原告一生の損害額は、一億二五九五万八四六五円である。
<10> 弁護士費用
本件事案の内容、審理経過及び認容額、その他、諸々の事情を考慮すると、原告らの本件訴訟追行に要した弁護士費用としては、原告一生分として一〇〇〇万円、原告憲昭、同芳美分として各二〇万円と認めるのが相当である。
<11> 確定遅延損害金 三九六万五七五三円
本件事故日(平成七年一一月一一日)から自賠責保険金の支払を受けた日(平成一〇年七月三日)まで九六五日間、三〇〇〇万円についての民法所定の年五%の割合による遅延損害金が発生しない理由はないから、原告ら主張のとおり、三九六万五七五三円の確定遅延損害金が認められる。
(三) まとめ
以上により、認容額は次のとおりとなる。
原告一生 一億三九九二万四二一円
原告憲昭、同芳美 各一七〇万円
第四 よって主文のとおり判決する。
(裁判官 中路義彦 齋藤清文 下馬場直志)